「元気な子を産む」という奇跡。《疑惑の48時間》の備忘録

早いもので、第3子妊娠9ヶ月になりました。

私は自宅近くの助産院での出産を予定していて、最近は2週に1度検診に通っています。以前にも書いた通り、助産院には医師がいません。そのため、提携先の医療機関にも数回検診に行き、いざという時にはそちらで受け入れてもらうための準備を整えておかなければなりません。


先週水曜は、その提携先の専門病院での検診の日。これまでの経過も至って順調だったので、さらりと検診を終えて帰るつもり、だったのですが……そこで思わぬ事態に直面することになりました。

今日はその《疑惑の48時間》に何が起こり、何を感じたのかを、自分のための備忘録として書き残しておきたいと思います。

終わらないエコー、無言の先生……

その日は午前中に産前最後のヘアカットに行き、その足でそのまま病院に車で向かいました。受付をしてもらい、血圧や検尿など必要な検査を済ませ、予約時刻である13時半までの間に、院内の食堂で昼食を摂りました。

その後周産期外来に戻り、予約時刻より少し早めに声をかけていただいて診察室へ。初めてお会いした女性の産科医の先生に簡単な問診をされ「じゃあエコー(超音波検査)で赤ちゃん診させてもらいますね」と言われ、脇にあったベッドへ。腹帯や腹巻きをめくってお腹を出し、そこに先生がゼリーを塗りながらプローブ(エコー先端のセンサー部)を滑らせていきました。

普通なら、ここで頭の大きさや大腿骨の長さなど、必要な項目を幾つか計測して検査そのものは終了します。あとは顔が見えそうならそこを探してくれて「口開けてますね~」とか「あ、今指くわえてますね!」なんて他愛もない話をして、10~15分で終わるのが常でしょうか。

ところが、この日はちょっと様子が違いました。先生の視線が、胎児の心臓の画像から離れないのです。何度も何度もプローブを動かしてはモニターを睨みつけ「うーーーん……」と漏らすか、無言が続くか。素人の私でも、さすがに「これは何かあるんだな」と気づくレベル……。

そのうち先生はPHSを取り出して、「すみません、今外来でエコーしてるんですが、○○が確認出来なくて……。一度見に来てもらえますか?」と別の先生を呼び出しました。間もなく来てくださったのは、上司とおぼしき男の先生(周産期部門の部門長でした)でした。

ここからは女医さんとその年配の先生が、二人で交互にプローブを動かし、モニターと睨めっこ。時々二人の口から出る単語で、心奇形の可能性があることや、その場合産後すぐの手術が必要になるだろうことの予想がつきました。

あーー今回ついに助産院での出産は無理なのかな。っていうか、出産場所はともかく、手術すれば治る疾患のかなそれ。手術すれば当分入院生活だろうし、そうなると……色々予定が狂うな……。なんてことがグルグル頭を巡るなかで、男性の先生がかしこまって言いました。

今の時点では、赤ちゃんの心臓のとある部位が正常かどうかの確認ができない。確認が難しいのは、もう妊娠30週を超えて、身体が大きくなってしまっていることや、今の胎内での体勢によるところも大きい。もし本当に異常があれば□□という病気で、産まれてすぐに手術の必要がある。病院でのお産であれば医師がいるのでまだ良いけれど、助産院出産だとそうもいかない……。

「上田さん、なので早いうちに、入院して詳しい検査を受けていただきたいんです」と。

へ?入院?いつ……? そう思っているうちに男性の先生は退席され、エコー検査は終了。ゼリーを拭って大きなお腹をしまって、また女医さんと向き合う形で椅子に座り直しました。

突如決まった、検査入院

「というわけで、ひとまず1泊2日で入院して検査をしましょう。赤ちゃんの体勢が変わるのを待ちながら、色んな角度で時間を掛けて検査をすることで、より確実な診断ができますので。助産院で産めるかどうか、ちゃんと確認しておきたいんです」

「赤ちゃんが今以上に大きくなると余計に判断が難しくなるので、出来るだけ早い時期に。で、小児科の先生に検査に立ち会ってもらえるのはこの日だから……。ちょっと急ですが、明日・明後日でどうでしょうか?」

「えーーと、上のお子さんのこととか、ご家族への相談もいりますよね。今から連絡取られますか?」

という急な流れで、私は一旦外来診察室を出て、指定された非常階段の踊り場でまずは夫に連絡。幸いすぐに電話に出てくれたので状況を説明し、夫の対応が間に合わなさそうなところを頼むべく、続いて実家の父にも電話。そんなに動揺していないつもりだったけど、夫に話すときはさすがに声が震えた、な……。

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なんとか夫と父の協力を取りつけ、診察室に戻って女医さんと日程を確定。明日から即入院ということで、そこからは一気に事務的な話へ。下階の入院受付に立ち寄って、悶々とする間もなくあれこれ説明を受け、ひとまずその日の分の会計を済ませ、車で病院を後にしました。

不安な胸中を「支えてくれたもの」と「刃になったもの」

帰宅してすぐ、先生が一度口にした疾患名についてネット検索。正式名称は長くて覚えられなかったけど、幾つかキーワードを並べてみたら、多分コレだなというものを発見しました。

先天性心疾患のひとつ。放置すれば多くは生後1週ないし1ヶ月以内に死亡する。治療には人工心肺を用いた開心術が必要。術後ついては、多くの場合正常児と同じ成長発達が見られるけれど、○○を併発した場合はあまり予後がよくない……。

そんな記述を見て、落ち込まないはずがありません。脳裏には、カルテからチラッと覗き見えた《胎児異常あり》の文字が焼き付いていました。もしこの診断が確定したら? 一度の手術で治ればまだいいけど、その後にも後遺症が残ったり、命に関わるようなことがあれば……?

悪い方ばかりに考えても仕方がありませんが、心の準備のためには、ある程度の想定もしておきたい。この時良かったなと思ったのは「なんでうちの子だけが……」「私のせいかもしれない……」という発想に《その時は》ならなかったこと。

私の頭の中には、病気や障害のあるお子さんを持ったり、お子さんを早くに亡くしたりした友人知人の顔が次々に浮かんでいました。主にSNSを通じて、多くの人と繋がらせてもらうことで、そういう境遇と向き合ったり乗り越えたりしている姿をほんの少しでも知っていたことは、とても大きかったです。

子どもの病気や障害について発信している方の、「子どもをネタにするなという批判が来ることもあるけど、『昔の私が読んだら励まされるだろうな』と思って発信している」とか「病気や障害そのものは、決して不幸なんかじゃないと伝えたい」といった力強いメッセージが、まだ診断も確定していない私にとっても、本当に本当に心強かったのです。何が起きても、それを乗り越えて笑っている人たちを私は知っているから、きっと大丈夫と……。

もし診断が下され、産後すぐに手術することになったら、その時は赤ちゃんの体力が肝になるはず。そのために私に出来ることと言えば、しっかり食べて安静にして、胎内で少しでも大きく丈夫な子に育てておくことくらいかな!と前向きに考えてみたり。

かと思えば反面、些細なことで落ち込んだりもしました。検診後の帰宅から翌日午後の入院までの間にあった、保育園への送り迎えと歯科の受診。

明らかに大きなお腹を見て、笑顔で飛んでくる「予定日はいつですか?」「生まれるのが楽しみですね」「元気な赤ちゃんを産んでくださいね!」という、本当に何気ない、悪意のない言葉。いつもなら笑って応えられるのに、その日は内心(ほんまに元気に産まれてくれるんかな……)(楽しみばっかりでもないんやけどな)と……。

元気いっぱいの長女と次女の姿にも、気を紛らわされる瞬間もあれば、無邪気にお腹にすり寄って来られるとドーンと気持ちが下がったり。ひと言で言えば、軽い情緒不安定ですね(苦笑)。

健康優良児で手もあまりかからず、スクスク育ってくれている上二人の存在は心強くもあるものの、楽しみにしているこの子達が悲しむ顔を見るのは辛いなぁ……と思ったり。

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結局、診断前に必要以上に考えるのはよそうと、夕飯は一品もので簡単に済ませ、珍しく娘たちと一緒に早い時間に布団にもぐり込みました。

1泊2日の入院で感じたこと

思えば、病院への入院はこれが人生初体験。二度の出産はアットホームな助産院で病院とはまた違った雰囲気ですしね。病棟、ナースステーション、検査室、病院食、大部屋での滞在……。ひとつひとつがある意味新鮮で、自分がこれまで40年近く、病と無縁で生きてこれたことを実感しました。

助産院でお会いするのは基本的に元気な女性ばかりですが、周産期病棟はいわばその真逆。お腹の目立つ人もそうでない人も、点滴のスタンドを引いていたり、歩くのがとても辛そうだったり……。

13時に入院手続きを終え、部屋に案内されてからすぐに、検査室に呼ばれて再度エコー。前日の外来の先生とはまた別の、産科の女医さん二人が同席して、小一時間ほどエコーが続きました。

「ここは確認できるんですよね」「そうですね」「でもこっちが……ちょっと見えづらいんですよね」「うん……確かに」医学用語を含んだよくわからない会話でありながらも、空気感はなんとなくわかる。めちゃくちゃ深刻そうではないけれど、白だとは言い切れない感じ……??

実際に、入院後1回目のエコーが終わったあとに言われたのは「おそらく正常範囲内、だと思うんですけど、希望が助産院なので、できるだけはっきりさせておきたいですね」といったこと。今日中にもう一度エコー検査をし、明日臨床検査技師と小児科医立ち会いのもと、また検査をして最終診断を下します、と。

その後2回目の検査で、産科の先生たちは「私達の見解では、おそらく問題なし」という意見を固めた模様。その頃には私もかなり肩の力が抜けていて、ベッドに戻ってから夫に経過を報告したり、持ってきた本を読んだり。

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(初めての病院食。
温かいものは温かく、冷たいものは冷たかったです^^)
先生たちとの世間話からは、やはりこの病棟にいるのは重篤な何かを抱える妊産婦さんが殆どだということや、今回疑いのあった疾患を持つ赤ちゃんは、関西一円を始め、時には九州など他地方からも受け入れている、ということを知りました。

まだ白だと決まったわけではない。最終的に少しでもグレーが残るなら、潔くこの病院でこの先生たちのもとで産ませてもらおう。ここの先生たちに直接診断してもらえる私はラッキーなんだなと思えるくらい、症例も豊富で専門性が高い病院だったのです。

 

入院2日目の最終検査と、医師からの説明

エコー検査以外にも、看護師さんが胎児心音を確認しに来てくれたり、夕方と翌朝の二度、分娩監視装置を付けて赤ちゃんの様子をチェックしたり。

入院していたのは、ナースステーションのすぐ隣で、直通の扉もある6人部屋。誰かが押したナースコールの音や、様々な医療機器の通知音やモーター音など、微細な音が断続的に聴こえてくる、独特の空間でした。

この病棟にいる妊婦さんや赤ちゃんが、みんな笑ってここを去れたらいいなぁ。ここにいるスタッフの人たちは、日夜そのために奔走されているんだな……としみじみ思いました。

そして入院二日目の午後、最後のエコー検査。前日とはまた別のフロアの検査室で、今度は女性の臨床検査技師さんが、じっくりとモニターをチェック。前日と似たような会話が交わされてるな、と思っていたら、ほどなくしてまた別の年配の男性医師が来室。こちらは小児循環器科の部門長さんで、女医さんや技師さんの見解を聞きながら、実際に検査もしてくださって。

「胎児と新生児では、心臓や循環の仕組みが大きくガラリと変わります。その過程でどんなトラブルが起こるかは、どの赤ちゃんでも本当に予測ができません。今回の検査結果の範囲で言えるのは、《他の一般的な赤ちゃんと同じ前提》だということです。」

すべての検査を終え、病室に戻ったらちょうど夫が迎えに来てくれて、小児循環器科の先生からの最後の説明を、夫婦で一緒に聞くことができました。

胎盤とへその緒を通じた酸素交換から、おぎゃーと泣き声を上げ急速に肺呼吸へと切り替わる瞬間。赤ちゃんの心臓周辺でどんな劇的な変化が起きているかを、図を元にした先生の丁寧な解説でこの時初めて知りました。生命って、お産って、自然の摂理って本当にすごいんだな……。

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「上田さんの場合、現時点での異常は見つかりませんでしたが、産まれてからどうなるかは正直誰にも予測できません。生後すぐに急変するような事態はなくても、もし心配なようでしたら生後一ヶ月くらいに、一度ここで検診を受けてみてください。」

お大事にしてくださいね、と席を立つ先生に、ありがとうございました、と深々とお礼をする私達。ずっと立ち会ってくれていた産科の女医さんも「異常がなくて、ほんとに良かったです!」と笑顔で送り出してくれて。元気に産まれたら、この先生にも抱っこしてもらいたいな……なんて思ったり。

ともあれカルテに《胎児異常あり》と書かれた検診から、48時間でその疑いは晴れ、私達は心底安堵しながら退院手続きをし、帰路につくことができたのです。

おわりに:備忘録として

帰りの車中で夫と話して実感したのは「元気に産まれてくるって、本当にすごいことだし、ありがたいね」ということ。48時間中に私が感じた不安なんていうのは、実際に闘病されているご家族に比べれば、吹いて飛ぶような僅かなものです。

でも裏を返せば、その程度の不安さえ私はこれまでの妊娠・出産で経験したことがなかったということ。それは本当に、ただのラッキーで奇跡だったのかもしれません。その「奇跡のような普通」と紙一重のところに、こういう不安が潜んでいるということを、今回気づかせてもらったのだな、と……。

同時に、不安や悩みを抱えていると、他人の何気ない言葉にこんなに気持ちがグラつくんだ、ということも実感しました。私は不安や悩みはすぐに自力でなんとかしようとするタイプですが、自力ではどうしようもない問題に直面すると、こんな気持ちになるんだな、とか。

「ご結婚されてますか?」「お子さんはいらっしゃいますか?」といった言葉がタブー視されつつある最近。あらゆる状況を配慮すると何も言えなくなる……という別の問題もありますが、それでも《相手の状況を1ミリ想像するだけで、避けられる摩擦》もあるのかもしれないなぁ……。

なんて、こんな風に色々想いを巡らせたことさえ、喉元過ぎればなんとやらで、すぐ日常にかき消されてしまうのだろうな。そう思って、記憶や気持ちが色鮮やかなうちに、備忘録としてブログに書き残すことにしました(ちなみに入院費は、保険適用込みで25,020円でした!)。

予定日まで、あと1ヶ月ちょっと。今回のことを笑ってネタにできるよう、身体をいたわりながら、マタニティライフのラストスパートをのんびり楽しみたいと思います^^

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この記事を書いた橘花(kikka)ってこんな人